20℃を超す春らしい陽気に誘われて轟の里へ出かけました。見晴しのよい貴船神社の駐車場に腰を下して、青く澄みきった空の下周囲を見渡すと、左右の山々では松、杉、桧などの常緑樹の中に、モミジ、山桜などの落葉樹がいっせいに緑の若葉を芽吹かせていて、特に柿若葉がキラキラと輝いて眩しいくらいです。正面に向かって頭を上げると遠く工場地帯の先に周防灘が展望できます。
 神社のフジ棚では紫、白の花が咲き始めもう間もなく大人の頭上に垂れ下がって来そうな気配です。境内の藪椿は盛りを過ぎて花は残り少なく、近年植栽された数本のツクシシャクナゲは、それぞれ気品のある薄桃色の花をつけていました。かつてはこの神社には樹齢300年といわれるフジの樹があって、横の楠の大木に蔓が絡まって延び、見事な濃紫の枝垂れフジが楽しめたものでした。残念なことに大型台風に見舞われ蔓が全て落下してしまい見る影もない悲惨なことになってしまいました。復活は覚束ないと知った地域の人達は、フジに代わって桜公園を造ろうと枝垂れ桜の植樹を始め、本年は見事な花が咲きました。駐車場の周りの草むらには、ヒヨコグサ、スミレ、タンポポ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ピーピーグサなどが咲き乱れています。耳をすますと、棚田を鋤く耕運機の音や、水量を増した川が急流となって下る瀬音に混じって、ウグイスなどの野鳥の鳴き声も聞こえてきます。足許から、棚田が段々と繋がっていて、なかには耕された田もありますが、まだピンク色のレンゲ草に一面が蔽われたところもあります。
 大型連休が終わる頃には、全ての田圃が耕され水が引き込まれます。やがて田植えが始まり、水面は青い空や濃緑の山々が映る美しい風景が展開されます。減農薬でミネラル分を多く含んだ山の湧水の中では多種類の生物が生息します。6月中旬に当道の駅で催している棚田ツアーでは、トンボのヤゴ、タガメ、オタマジャクシなどが泳ぎ回る姿を見ることができます。夕方ともなれば、蛍の乱舞が見られます。この季節には集落の人が集まって、豊作を祈願して早苗宴を行います。お盆の頃には、ヤゴが孵化した赤トンボが稲穂の上をスイスイと飛び交う光景が見られます。やがて稲刈りの時期となり、豊作を感謝して神楽の奉納が行われます。その頃の秋の棚田の光景は豊前通信№160号に書いた通り。こんなことに思いを巡らせていると、つい時の立つのを忘れてしまいます。